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若者の酸素離れが叫ばれる。

地球環境の保護のため、人間の生活スペースを階層化してからはや15年。近年、若者の酸素離れが叫ばれている。ボンベに詰めて販売されている酸素は、自然発生するものより高濃度だし純度も高い。その他の栄養素を含んでいるものも販売されており、効率よく体内の活動をサポートしてくれる。以前とは違い、簡単に持ち運べるサイズにまで圧縮されており、見た目もデザイン性の高いものばかりだ。だが、若者の間では酸素は「わざわざ買う必要のないもの」になってきているようだ。

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確かに地上付近の酸素濃度は、下がっているとはいえ特別な機器を使用せずとも十分生活が可能だと言われている。しかし、あるものだけを使用すればいいと言って求めずに生きることは健全と言えるのだろうか。

現在、地球上は土を必要とするものたちと、なくても生きていけるものたちとの間でうまく区切られて利用されている。日本の背骨部分に当たる山岳地帯は、今も遠い空まで見通すことができる、地上だけの楽園だ。

対して、首都を含む中心都市部は100mごとに階層が区切られ上へ上へと生活スペースが持ち上がってきている。当然、上層部に行けば行くほど酸素が薄くなるため人間がそのまま生活することは難しくなるが、酸素ボンベや圧力調整スーツなどを着用すればいいだけの話だ。費用はかかるが、上空から見下ろす街の様子には素晴らしいものがある。特に夜景は、まるで宇宙にいるかのような浮遊感が感じられ、自分が今地球で生きているのだということを実感させてくれるだろう。

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階層の移動は制限があるわけでもないが、ごく自然と富裕層は上層部へ、一般〜貧困層は下位層に集まってきているようだ。依然として人気なのが、富士山を見下ろせるエリアだが、家賃も物価も高止まりのままである。

15年前、縦方向の空間の活用が発表され、実際の技術を目の当たりにした時、スマホの登場なんかよりもよほどの衝撃を受け、そして感動したことを覚えている。その頃の若者たちは、私も含めてだが、競って上層部への移動を試みたものだった。酸素ボンベや圧力調整スーツは驚くほど売れた。水中用の酸素ボンベで代用して、なんとか上に行こうとするものまでいたくらいだ。

だが、そうした特需も落ち着いてきたのか、新たに上層部に移動しようとする若者は大幅に減少した。下位層では無料で吸える酸素を、わざわざ買う必要があるのか? と言われるようになってしまったのである。

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夜景は、下位層でも見られる。上からの景色が見たければVRでいくらでも見られると言う。確かに、言っていることはもっともだ。事実、上空からの映像を納めたデータは以前よりも売れるようになったらしい。VR画像を見ながら食事ができる店までオープンした。若者のデートスポットととして大変人気だ。

だが、何か寂しいような、もやもやした気持ちを抱くのは私だけだろうか。新しいものを目にして、それを手に入れるために最大限の努力をする。そうして手に入れた時の喜びこそ、人間が人間として生きる上で大切なものだと思うのだが、そうした考え方がもはや、古くなってきてしまっているのかもしれない。