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【ネタバレあり感想】実写版「美女と野獣」永遠の愛は短い時の積み重ね【レビュー】

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前回、東京フィルハーモニー交響楽団の演奏と共に上映された「美女と野獣」を鑑賞しレポートを書きましたが、先日、楽しみにしていた日本語吹き替え版も観に行ってきました。

日本語吹き替え版って、お子様向けでしょ? 外国人の顔と日本語って合わないのよね…となんとなく避けているみなさん、「美女と野獣」の日本語吹き替え版は本気のミュージカルです。なめないでください。

美女と野獣日本語吹き替え版キャスト

日本語吹き替え版の声優を担当している方達は、日本のミュージカルトップスターばかりです。信じられないような人たち、このまま舞台やったら?! っていうレベルです。

 

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最近はドラマでもよく目にするようになった山崎育三郎さんが野獣役です。山崎さんはミュージカル三代プリンス(すごいな)のグループ「STARS」でも活躍されています。

イケメン、演技うまい、歌うまい、最強です。

 

 

日本語吹き替え版の野獣の熱唱「ひそかな夢」は涙なしには観られません。

私は実写版映画オリジナルのこの曲、字幕版ではピンとこなかったんですが、日本語字幕版をきてグサーッとやられました。

 

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日本語吹き替え版で大活躍しているのは、間違いなくガストン役の吉原さんです。劇団四季で活躍されていた経歴をもち、劇団四季ミュージカル「美女と野獣」にも出演していました。

作中、役と声がぴったり、もう信じられないくらいぴったりハマっていて、外国人のガストンなのにもともと日本語が喋れるかのような一致ぶりでした。めちゃくちゃかっこいいので、本当に一度観ていただきたいです。

 

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そして! 洋服ダンスになってしまったオペラ歌手のマダム・ド・ガルドローブを演じるのは、私が昔から大好きな濱田めぐみさんです。この方は劇団四季に所属し、「美女と野獣」のベル、「ライオンキング」のナラ、「アイーダ」のアイーダ、「Wicked」のエルファバと、主役を演じまくったお方です。特に、「Wicked」のエルファバ役にはぴったりすぎる歌声。

 

「ライオンキング」のナラがシンバを探すために命をかけて旅に出るシーンの歌です。なんという切実さ、決意の強さ…。

 

 

かっこ良すぎる。「アイーダ」では、恋と一国の王女としての役目の間で揺れる女性を演じました。

 

 

個人的には、こちらも強い決意が感じられるローブの歌が好きです。

 

 

そして、私が愛して止まない「Wicked」のエルファバ役です。

 

 

かっこいい。

熱くなってしまいましたが、こうしたそうそうたるメンバーが歌い上げる日本語吹き替え版なのです。両方観る価値しかなくて困る。

 

実写版「美女と野獣」が語る永遠のための努力

さて、ここから日本語吹き替え版を観てより深く理解できた実写版「美女と野獣」について私なりの解釈を加えていきたいと思います。

 

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「永遠に変化しない」呪い

冒頭、村の人たちとはちょっと違うベルについて歌い上げるシーン。

女同士でつるまない、男に興味も持たない、本とここではないどこか違う世界に思いを馳せる女の子として、村人からは変人扱いをされています。

 

ベル本人はというと、「いい村だけど、この村はここに来た日から何一つ変わらない。」と言っています。

私は「いい村だけど、この村はここに来た日から何一つ変わらない。」という言葉に引っかかりました。この言葉には

 

  • そもそも、ベルは部外者である。
  • 長い間変化のない村。

 

この二つが表現されています。この後のストーリーで、ベルは赤ちゃんの頃に伝染病から逃れるためにパリからこの村にやって来たことがわかりますが、その時からこの村は変化していないということになります。

 

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ベルは発明家の父親と二人暮らしです。オルゴールのようなものを作成しており、毎年同じ日に開催されているコンテストに参加しています。

この日は、3年目の挑戦です。ベルはいつもバラの花をお土産に持って帰ってもらっているようです。

 

「ここに来た日から変わらない村」と、成長していくベル、3年前から参加しているコンテスト、この辺りに変化の歯車が回り始めている気配を感じます。

その後、戦争から帰ったばかりのガストンが登場し、ベルに対して求婚します。この物語の引き金は「ガストンの求婚」だったのではないでしょうか。

変化のない村に置いて、唯一変化をもたらすベル、モリース、ガストン、そしてル・フウ、全ての駒が揃ったことで、物語は動き始めます。

 

魔女アガットの存在

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アニメ版では最初に登場するだけの魔女は、村人であり乞食のアガットとして物語の中に潜み続けます。

どんな時でもみすぼらしく、一番弱いものの姿をしている魔女は、その見た目から人々に疎まれています。魔女は、あえてその姿で人々の本性をさらけ出す役割を担っているのかもしれません。 

 

また、魔法がかけられてから魔法が解かれるまでずっと近くの村に潜んでいたという点も気になるところです。ベルも野獣も、母親がいません。優しい父親に育てられたベルと、無慈悲な父親に育てられて心が歪んでしまった野獣。

魔女は、何かを学ぶ必要のある人の側で、その人たちの行く末を見守る役割を果たしていたのでしょうか。

 

母親のいないベルと野獣

実写版「美女と野獣」の完全なるオリジナルとして、二人が母親を失った経緯が描かれています。アニメ版をよく見ていた私達からすると「この要素、いる?」と思ってしまうのですが、実はこれも物語を支える大切な要素の一つです。

冒頭でモーリスがオルゴールを作りながら歌い、エンディングではセリーヌ・ディオンが歌う「時は永遠に」にこんな歌詞があります。

 

How does a moment last forever?
How can a story never die?
It is love we must hold onto
Never easy, but we try

(中略)

Maybe some moments weren’t so perfect
Maybe some memories not so sweet
But we have to know some bad times
Or our lives are incomplete
Then when the shadows overtake us
Just when we feel all hope is gone
We’ll hear our song and know once more
Our love lives on

(日本語訳)

どうしたらこの一瞬は永遠になる?
どうしたら物語は終わらない?
愛は手放してはいけないもの。
決して簡単ではないけれど、でもやるのよ。

完璧じゃない時もあるし、甘い思い出ばかりではないでしょう。
でも時には悪いこともあるし、人生は完璧じゃないと知らなければ。
闇が私たちを覆い、全ての希望がなくなったと感じるときも
もう一度私たちの歌を聴けば、愛は生き続けるの

 

人生には辛いこともあるけれど、それでも愛を失わずに時を積み重ねることが大切。母親のくだりはこの歌に繋がるものだと思います。

 

違いを認識し歩み寄ること

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アニメ版でも印象的だった、晩餐会でスープを飲むシーンは少し形を変えて登場します。ベルは村の変わり者、野獣は野獣の姿になったことでこの世の全てのものから拒絶される存在、お互い排他されている経験を共通として、二人の距離は縮まっていくことになります。

 

二人とも読書が好きだったり、共通点もありますが、同じでないこともたくさんあります。これはどんな人間関係、カップル、夫婦、家族においても同じことですね。違いがあるときには、どうしたら良いのか。

 

スープのシーンで、スプーンを使ってスープを飲んでいたベルと、犬のように皿を舐めていた野獣は、お互いの姿を見合わせた後、手でお皿を持ち上げて飲む方法を取り入れます。これなら、二人ともが問題なく実行することができます。違いを受け入れた上で、二人が同じようにできる新しいルールを作り出したのです。 

二人の間でしか通じないルール、これは人間関係を深めるための基本ではないでしょうか? 違うことを拒絶せず、新しい方法を見出していくことを、このシーンで表現しているのだと思います。

 

永遠の幸せのための努力

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他人と違うこと、排他されること、唯一の人を見つけること、そしてその人と末長く幸せに暮らすこと、言葉で言うのは簡単でも、成し遂げるのは大変なことです。

そのために、世の中には崩壊する関係性が山ほどあります。

「美女と野獣」のエンディングテーマでは、永遠の愛を得るためには、幸せを長く続けていくためには、短い時間の積み重ねが大切と歌われています。

 

これまで、おとぎ話といえば幸せになった瞬間が最後の一コマで、そこから先は「末長く幸せに暮らしました。めでたしめでたし」で終わってしまっていました。

でも、本当に大切なのは幸せを永らえるための努力をすること。「美女と野獣」実写版では、その部分についてもしっかり描かれていたと思います。

「アナと雪の女王」で描かれた異質な存在と多様性を認める心、そして多様性を受け入れた後歩み寄り、長く関わり続けることを描いた「美女と野獣」は、まさしく現代を象徴していると言えるのではないでしょうか。

私は、エンディングテーマを聞いて物語と歌が全て繋がり、観終わった後も涙が止まりませんでした。

 

アニメ版とは違う、現代に蘇った「美女と野獣」

時代によって物語が伝えるべき内容はもちろん変化するでしょう。実写版「美女と野獣」は、見事に現代の物語として蘇った、いや、新たに誕生したと言えます。

感想は言っても言っても尽きないし、思い出したりサントラを聞くと涙が出そうになるし、ディズニーはまたとんでもない作品を生み出しましたね! 全く! 

 

最後に、野獣が一人歌う「ひそかな夢」をどうぞ。野獣は冒頭で「誰がこんな野獣を愛するだろうか」と、魔法を解く為には「愛し愛されることが必要」であるにもかかわらず、愛されるかどうかということしか心配していませんでした。

ベルと過ごし、ベルを自由にすることで、今まで見過ごしていた「愛する」ということに気付くのです。

 

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